日本の昔ながらの和船を作る時、船大工は古い和船に使われていた木材の一部を切り取り、わざわざ新しい船の帆柱などに組み込みました。とかく危険がつきものの海や川での仕事で、長年無事に活躍した船は縁起の良いものですから、その運にあやかりたいという意味でしょう。ここにも、前に書いた九十九神(つくもがみ)という考え方があるように思えます。余談ですがそういう時に使われるのは、「弾入り」と言われる木だったと言います。これは、山に生えていた時に、猟師が放った鉄砲の弾がたまたま食い込んで、そのまま育った部分のことで、なぜそれが良いのかは判りませんが、滅多にないことだから縁起が良いというような意味でしょうか。
最近よく聞かれるリサイクルというのは大変に良いことですが、日本人は昔からそれを実践してきました。モノとしての再利用というだけでなく、古いモノには神様が宿っているから、人間を超える力に守って欲しいからと願う気持ちがあるのは、さらに意義の深いことだと思います。仏壇ならなおさらそうです。私たちの「百年仏壇」には、そんな昔ながらの思い入れや心配りも込めたつもりです。
私たちの店にはよく古い仏壇が持ち込まれてきます。お客様の生活環境が変わって、古い仏壇を置くスペースがないので買い換えなければならないなどの理由ですが、それらの仏壇がしっかりした素材をつかってあり、工芸品としても一流の仕上がりだったりすると、なんともいえない寂しい気持ちになります。
仏壇はリサイクルができないので、お焚きあげと言って解体、焼却処分するのですが、よく言われる「魂が抜かれている」というのはちょっと微妙な表現だと思っています。魂はそもそも不滅なはずで、仏壇がどうかなったくらいで一緒に消えたりはしません。不吉な話ですが、災害などで仏壇はもちろん、ご本尊まで失われたとしても、魂は健在なはずで、家を立て直している間も、仏壇やご本尊を新しくしてからも、変わりなく一家を守ってくれているはずです。
日本には昔から九十九神(つくもがみ)という考え方があります。長い間使い続けた道具には魂が宿るというもので、このため全国各地に包丁塚や人形塚などがあり、針供養が行われたりします。私は、長年家族の祈りの対象だった仏壇には、この九十九神がいるような気がしてなりません。もちろんお炊きあげにはそれを供養するという意味もあるのでしょうが。
そこで私は、古い仏壇の一部を、新しい家具調の仏壇の部品として生かすことを考えました。思いついてから、改めて仏壇の構造を調べたり、デザインを考えたりと、思った以上の時間がかかりましたが、「百年仏壇」という名前で、何とか実現することができました。百年とはちょっと短いような気もしますが、現在持ち込まれる古い仏壇はせいぜい数十年経ったものが多く、古い仏壇の命をせめて百年伝えたいという思いを込めました。お店には、このちょっと変わった形の百年仏壇が陳列されています。古いお仏壇をお持ちの方に、一度ご覧いただけたらと思っています。
仏壇というと、誰かが亡くなられた時に買うものと思っている方がいます。もちろんそれでも構わないのですが、本来はそれぞれのご宗旨のご本尊をお祀りし、その中に代々の位牌を安置するための場所で、お墓とはちょっと意味の違う神聖な場所です。昔はよく、家を新築・改築した時にお仏壇を新しく立派なものに取り替えました。その家の一家が努力して自分たちだけでなく先祖の住まいまで立派にできたという意味で、晴れやかでおめでたいこととされました。代々続く名家のお正月の行事は、家族全員が仏間に集まり、当主が仏壇に祈ることから始まります。戦国武将も戦の前に屋敷の仏堂にこもって勝利を祈念したといいますが、現代人の暮らしでこの仏堂に当たるのが仏壇です。迷いや不安が生じたときにも、お仏壇に向かって拝むことで精神集中を図るというのもいいでしょう。なくなった方の供養だけでなく、今いる方々の毎日の暮らしの支えとなるのが本当のお仏壇の役割です。
最近、木目を生かした現代風仏壇が人気を呼んでいます。家具と同じセンスで選べるという点で、現代人に人気があるのでしょう。一方、金箔、漆塗りの仏壇の良さは、分かってもらえなくなったのかもしれません。もちろんそれぞれの良さがありますが、今回は漆塗りの魅力を少し。漆というのは単なる塗装ではありません。ペンキなら、厚く塗った仕上げを見て素材の悪さをカバーしたものと思われても仕方がありませんが、漆は塗料それ自体が価値を持つものです。漆を塗って長居年月耐えられるように専用の仕上げを施した木地に、専門の職人が手作業で塗り重ねて行く漆は、海外では「JAPAN」と呼ばれ、日本を代表する工芸技術です。漆製品は、下地の木に何を使っているかではなく、漆の塗りの厚さや光沢などで価値が決まります。そして、正倉院御物や各地の寺社の荘厳具に見られるように、何百年も変わらぬ美しさを保ちます。とりわけお仏壇は、漆塗りの食器や調度品に比べて、はるかに大量の漆を使うため、それだけ贅沢で価値の高いものです。ただ黒いだけに見える表面も、じっと眺めているとなんとも言えない輝きや深みを感じるはずです。それが日本人の心の中にある、「正式で格調ある黒」「清浄で貴い位を表す黒」そのものです。今度漆塗りの仏壇を見る機会があったら、その表面の色合いも味わってみてください。
今日は雛祭り。雛人形を飾る雛壇の壇はお仏壇と同じです。壇という字はもともと土などを高く盛り儀式などを行う場所のことを指していて、段々という意味ではありません。画壇、教壇、文壇、論壇等と同じで、高い精神活動が行われる尊い場所という意味があります。仏壇といえば仏様やご先祖様がいらっしゃる場所という意味で、箱という意味ではありません